第十一話 運動会と俺

64/95
前へ
/558ページ
次へ
俺の後ろの方、調度端に咲く青々とした桜の木の木陰では、奥様方で集まって話をしている母さんの姿があった。 息子の競技も見ずに井戸端会議とは……、さすが、うちの母親だ。 遠目に見える母親方3、4人。俺と同じようなやつらは、今見れるだけでも数人はいるらしいな。 可哀相に。運動会だってのに保護者さんに見てもらえないとは。 まぁ俺は慣れてるから別にいいんだけど。 というよりも、俺の横には棗がいるからな、寂しくなんかないやい。 「な? そうだよな?」 「………………?」 小首を傾げる彼女。どうやら読心術はないらしいな。さすが一人称クオリティ。 というより、いきなり話を振られたら誰だって戸惑うか。 俺はいきなり話を振られ、若干たじろいだようにも見える彼女の元に歩み寄り、 彼女の俺より一段低い肩に手を乗せた。 「……あんな母さんだけど、これからいろいろとよろしく頼む」 「……。……こくっ」 また一瞬首を傾げたが、すぐ後に彼女は頷いた。 傾げは言語理解、頷きは決意承諾ってところだろうか。 これから長い関係になるんだもんな。 俺が家にいないときは……うん、自宅のことは棗に任せっきりになるし。 母さんよりかよっぽど頼りになるよ、うん。 何故か彼女の前で頬が緩んでしまう俺だ。 彼女がまた疑問の顔でこちらを見てるが……まぁ気にしない傾向で。 「暇だな。散歩行くか?」 「……こくっ……!」 とりあえず無言な俺と彼女の間に若干の見つめ合いの時間が流れた後、俺は話をきりだした。 彼女はそれをもちろんOK。 よし、棗との散歩、しゅっぱつしんこーだ。  
/558ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4719人が本棚に入れています
本棚に追加