第十一話 運動会と俺

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俺は彼女の前に立ち、先程と同じように人込みを掻き分け掻き分け……。 とりあえず奥様方のいらっしゃる桜の木陰が見える若干広い場所へと出た。 まぁここなら迷子になる心配もないだろう。 というより、迷子になるほどこの運動場は広くないんだよな。デパの方がよっぽど広いってんだ。 「とりあえずここらへんぶらつくか?」 「…………こくっ」 若干何かを考えるようにほんの少しだけ上を向き、そのあとに小さく、されどいつもよりかは深く頷いた彼女。 ただの“頷き”でも、彼女のは違いがあってぎりぎり俺も分かる。 分かりやすい返事でありがとう、棗。 まぁとりあえず脳内会議は終了し、俺と棗は若干歩きやすくなったところを歩いている。 ま、適当に適当を重ねた俺の予定だと、俺の応援席側に始まり、このままぐるっと運動場を一周するつもりだ。 歩みを進める俺と彼女。俺が彼女に歩幅を合わせるような感じでやってます、はい。 「さっきの競技……俺、どうだった?」 隣のトラック内では、またも一年生が校庭の中でなにかしらの競技が始まるのかな~……なんて思っていた矢先のこと。 さっきは増人増脚なんて~……とは言ってたが、やっぱり聞きたい俺。 「…………走ってた」 「いや、それは当たり前だろ……あ、いや、うん、なんでもない」 うん、彼女らしい返答をありがとう。 思わずつい愚痴が俺の口から滑り出そうになってしまったが……、まぁそこはじっと堪えるの傾向で。 とりあえず歩きながらで会話を進めることにするか。  
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