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鍵を開け、俺から扉を開ける。
「たっだいま~っ」
「あ、あぁ、お帰り」
やっぱり母さんだった。予想が現実になっちまった。
「ご飯は食べてきたから~」
……あれ? ここまでの会話を整理してみよう。
普通に会話が成り立っている。
仕事帰りなはずなのに、あまり酒の匂いがしない。しかも、何故に酔っていない?
母さんは普通に靴を脱ぎ、中へと足を踏み入れようとした一一のだが、
「あら、この靴は?」
さすがは母さんだ。無駄に鋭い。棗の靴にも一発で気付きやがった。この場合は“彼女”という設定はひとまず置いておくとして、
「珍しく早いな。母さん、酒は?」
しらばっくれてやる。それと、この包帯ぐるぐるの手には何もつっこみは入れないのか。
「今日は飲んでないわ。
二日酔い? 知らないわよ、そんなの。
今日は軽~く気分がいーいーのー」
なるほど、奇跡っていうのも時には起こるらしい。
酒は飲んでいない……。もしかしたらこの説得、いけるかもしれない。
「靴のことだったっけ。
……今説明するよ」
やっぱり『彼女』という設定で一度通してみよう。
それで無理なら、俺の知ってる限りのことを話してやるんだ。
俺と母さんはリビングへと到着。
テーブルの横でしゅんと座っている棗。ふと、彼女は俺(ではなく、横の母さん)と目が合う。
あ、猫耳とか尻尾とかはどうしよう。帽子でも被せときゃよかったか?
「………………?」
相変わらず彼女の顔は無表情。
棗さん、俺も貴女のようなポーカーフェイスを学びたいです。
「まぁ、可愛いから一応許すけど、一応説明してもらえる?」
あ、案外通ったな。だが、いざ説明となるとしづらい。
さて、ない知恵必死に振り絞って考えよう。
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