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時間は八時十五分になった。始業のチャイムまであと二十五分。自転車に乗って学校へ向かう。いつもとなんら変わらない一日が始まる。 理沙は毎日、自転車に乗ることをわずかに躊躇する。今日ぐらい学校休んでずっと川を見つめていてもいいんじゃないか、と思ってしまう。しかしまたこれもいつものことで、理沙はその邪念を振り切り、ペダルを踏む。 土手を降り、畔道を走る。風が背中を押して、少し加速する。だんだんと友達が色々な道から集まってきて、挨拶を交わしながら走っていく。道は太く大きくなって、沢山の学生が見えてくる。十分走っただけで景色は様変わりする。理沙はスピードを緩めることなく、高校の正門へ入っていった。 八時三十五分到着。前後はあるが、これも日々同じ。理沙三十五分に着きそうにないと、自然と自転車のスピードを上げてしまっている自分に気付く。 慣習が崩れると人はとても不安になる。今いる仲間、今置かれている立場、規律、その他様々な慣習が人にはまとわりついている。その中で安心していることはすごく楽だ。ただそこからは何も生まれないのも事実である。 早寝早起きが突然できる人は、きっととても意志の強い人だと理沙は思う。自分にはそれはできない。慣習を打ち破りたいとかすかに心の隅で思うことは理沙にもある。しかしなかなか実践はできない。 彼氏いない歴十七年。強がりではないが、一人の生活に価値を見いだせる理沙にとって彼氏という存在は全く外の世界であり、自分の慣習の中には到底介入してくることはないと考えている。自分に満足していればそれでいいとも思える。
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