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「やべっ」
時計を見れば、それは海が乗る予定だった電車の停まった音で、気が付かなかったがここで女にかなり長い時間見惚れていたらしい。
余裕を持って駅に来たはずなのに、どうしてぎりぎりに電車に飛び込む人みたいに走っているんだろうと、自分の迂闊さを呪いながら駅舎に向かって走った海だったが、鞄の底に入れたパスケースを探している内に、無常にも電車は走り去ってしまった。
「……嘘、だろ?」
海の顔が、その名前のように蒼ざめる。
利用者が少ないこの路線は、次の電車が来るのは三十分後だ。それでは間に合わない。入学式当日から、遅刻してしまう。
そういう訳にはいかない海は、大きなため息をついて自分の携帯電話を取り出した。
女が落としていった手の中の携帯が目に入ったが、今はそれに構ってる暇はない。同じ学校なのだから、たぶん会えるだろう。そこで渡せばいい。
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