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海人に送ってもらったものの、渋滞に巻き込まれて定時ぎりぎりに教室に飛び込む羽目になった海の目に、あの桜の樹の下の女の後ろ姿が目に入った。
――あの、見事な黒髪は、間違いない。同じクラスか……――
周りは、新しいクラスメートとの交流を深めているが、彼女は机に肘をついて誰とも話さず文庫本を読んでいる。
海は黒板に貼られている座席表で自分の席を調べるついでに、女の名前を調べた。
――大津 雅――
記された名前を見て、海の中で彼女の存在が、急に現実となった。変な話だが、桜の樹の下の彼女は、何処か御伽噺の中の人物のような、そんな印象だったのだ。
海は小さく口の中で雅の名を呟いた。音に出してみれば、それは雰囲気が美しい彼女にぴったりはまっているように思えた。
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