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「メール、してね」
「勿論」
留加の小さなお願を了承した海は、もう一度留加にキスをしてから自転車に乗り、駅へと走らせた。
海が乗る電車にはまだ余裕で間に合うのだが、妙な処で神経質な海は十分前行動をモットーとしていて、常に余裕を持って行動している。
海の住む町の駅は、町の寂れっぷりに比例するように駅舎も寂れてはいるのだが、ターミナルに大きな桜の樹がある。
ニュースで県内の桜が満開になったとキャスターが告げていたが、この桜も例外ではなく、薄紅色の花弁が大木を柔らかに春を彩っている。緩やかな春の風に押されるだけで、花弁が淡雪のように舞う。
その景色は圧巻で、駅舎に向かう人も足を止めて魅入っていた。桜って美しさだけでなく、ちょっと妖しい、人を惹きつけてやまない、そんな魅力がある。
駐輪場に自転車を停めた海は、まだ時間に余裕があるのを確認し、桜を見ていこうと足を向けたのだが、海の目は桜ではなく、桜を見詰める女に止まった。
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