act.1

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 目を止めたのは、その女が、いささか時代錯誤なレトロなデザインのセーラー服を身に纏っていたからで、それは海と同じ県立南部高校のものだ。  だが、海はその女に見覚えがなかった。  海の出身中学である北丘中学は、少子化と過疎化の影響で生徒数が少なく、全校生徒顔見知りだった。    この駅を利用する高校生は、北丘中学出身の生徒ばかりの筈だから、学年は違っても見たこと位はある筈なのだが、記憶には無い。もしかしたら引っ越してきたとかで、同じ中学には通っていなかったのかなと結論付けたが、それでも海はその女から目を逸らすことが出来なかった。  それは、その子が桜を見詰めている目に惹かれたからだ。美しいものを愛でるといった雰囲気ではなく、もっと何か想いが籠っているような、そんな強い視線だった。そこからは、鬼気迫るものさえ感じ、だけどすごく美しくて海は生まれて初めて女性に見惚れるという経験をした。  容姿は、美人でないとは言わないが、何処となく惜しい雰囲気だった。輪郭は綺麗な卵型で、意志の強そうな切れ長の目や、すっと通った鼻筋、形のいい唇は美しいのに、やや吊り気味の太めの眉の存在感が強くて台無しにしている。それに、よく手入れされているのであろう艶やかな黒髪は、腰まで流れているが、少し重い印象で何処となく垢抜けない雰囲気にしている。  だけど、そんなマイナス点は歯牙にもかけない程、纏っている雰囲気が美しい女だった。
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