祇園

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晋作は蘭を伴って別の座敷に移り、ふたりきりで酌み交わした。 夜風にたなびく雲を眺め、蘭に三味線を頼むと、即興の都々逸を唄う。 詩才もあり、喉もいい。 三味線は、道中欠かさず背に負っている。 「惚れたおまえにゃ命を捧ぐ 逝くも残るもぬししだい」 なんの飾りもない直球を投げかける。 蘭はふふッと笑い、 「危うい香りに まま酔いしれて 底なし沼で もがく日々」 白く細い指でつまびいた。 その様は、たまらなく艶っぽい… 京の暑さも手伝ってか、晋作は、ますますのぼせあがってしまった。
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