高杉晋作という男

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「ねぇさま、あの人、見て」 指さす方を見ると、旅装束の若い侍が、河原に座り、道中三味線を器用に組み立てている。 見事な手際に、彼女もしばし見とれてしまった。 「あっ、お待ちなさい!」 声をかけた時には、雅寿はもう、若者の隣にちょこんと腰を下ろしていた。 「なんじゃ、童」 「お侍さま、それは三味線ですか?」 「そうじゃ。わしァこれから江戸に向かう。こいつは旅の共じゃ」 「お侍さまは、三味線とお友だちなのですか!」 「そうじゃ。名前もついちょるぞ」 侍は気さくに応じ、 「分解して携行できる、特注品じゃ」 得意気に言うと、しなやかな指で、都々逸の節をつまびいた。 台風が去ったあとの空のようなカラッとした声に、しばし聞きほれる。
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