270人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇさま、あの人、見て」
指さす方を見ると、旅装束の若い侍が、河原に座り、道中三味線を器用に組み立てている。
見事な手際に、彼女もしばし見とれてしまった。
「あっ、お待ちなさい!」
声をかけた時には、雅寿はもう、若者の隣にちょこんと腰を下ろしていた。
「なんじゃ、童」
「お侍さま、それは三味線ですか?」
「そうじゃ。わしァこれから江戸に向かう。こいつは旅の共じゃ」
「お侍さまは、三味線とお友だちなのですか!」
「そうじゃ。名前もついちょるぞ」
侍は気さくに応じ、
「分解して携行できる、特注品じゃ」
得意気に言うと、しなやかな指で、都々逸の節をつまびいた。
台風が去ったあとの空のようなカラッとした声に、しばし聞きほれる。
最初のコメントを投稿しよう!