高杉晋作という男

9/9
前へ
/55ページ
次へ
「なにしちょる!」 友達の三味線を放り出し、男は顔を真っ赤にして怒鳴る。 「いいんです。もう慣れましたから」 「いいわけないじゃろ!美しかもんに傷つくのが、わしゃ何より嫌いじゃ」 綺麗な蒼い目を伏せて首を振るまりあの制止を振り切って、つかつかと歩み寄ると、子どもたちを鴨川に突き落とした。 呆気にとられるまりあをよそに、続いて自分も飛び込んだ。 ふんどし一本の裸身は華奢ではあるが、鍛えぬかれた輝きがあった。 いつの間にか、全員が笑顔。 「死ぬ時は死ぬっ。生きる時は生きるっ。今は学問をして、己を磨けばいいんじゃっ!」 誰にともなく声高にそう叫ぶと、そこらじゅうに響き渡るような高笑い。 まぶしい笑顔に、まりあも思わず顔をほころばせた。 この男こそ、幕末の世を疾風の如く駆け抜け、最期は血をはきながらも芸者と遊ぼうとした、粋人・高杉晋作だった。 .
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

270人が本棚に入れています
本棚に追加