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「……柳川さん、今日こそは食事に誘ったら?」
朝日は嬉しそうな表情を全面に出して、ニヤリと笑った。またこれか……っと瞬時に思った。彼女はただ楽しんでいるだけなのだ。
「うーん……なんか難しくて。俺今まで女の子を食事に誘ったことなんてないしさ……」
彼女の顔を見れず、顔を背けた。しかし、僕は決して獲物を逃さないような彼女の視線を体全身に感じとっていた。
「もぉ~!そんなんやからいつまで経っても前進しないんやんか。ウチがええ店予約しとくからさぁ」
「それは困るよ。なんだろう……あんまり外食も経験ないし、高校は男子校の部活一色だったから。なんか慣れないんだよ……」
僕の中でこれは言い訳ではなく、紛れもない事実だと思い込みたかった。食事に誘えないのは、ただ勇気がないとかそんなんじゃない。ただ……今までそうゆう経験を得る機会に恵まれていなかっただけだって……。
「ってかさ、ウチから見て小谷と柳川さんってお似合いやと思うよ?実際彼女も気ありそうやん」
朝日を含む僕の友達はよくこうゆうことを口にする。帰る方向がかなり被ってしまっている柳川さんとは、僕からたまに声を掛けて帰ることがある。
確かに彼女に嫌われている様子もないし、逆にあっちは喜んでいるようにも見受けられる。会話も途切れず、簡単に笑いあえる仲だった。
でも、僕がなぜ彼女に対してここまで自信ないかは、僕だけが知っている。
柳川さんから、話しかけてきたり、一緒に帰ろうなんて一度も言われたことがないからだ。
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