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   「……柏木 優一」  現在は帰りのHRで、中間テストの結果が返却されている。私より先に返された男子が、悲鳴や歓喜の叫びを上げていて、受け取っていない人間も個表を覗き込んだりで大声で笑っているため、さながら動物園のようだった。隣の教室からも聞こえるはずだが、区別はつかないから関係ない。  ……私の後に返される方が多いし、これはもっとうるさくなるだろうな……。  心の中で苦笑しながら、個表を受け取った。  良かった……。変わってない。  『二学期中間』の欄の学年順位の場所にプリントされた、“3”の数字にほっと胸を撫で下ろした。  「……ムカつく」  背後から囁かれた言葉に、背筋がピンと引っ張り上げられるのを感じた。振り向けば、眉を顰めて個表を覗き込んでいる菅野の姿。目が合った瞬間に、舌打ちして自分の席に戻っていった。  ……毎回毎回、本当に何なんだろう……。  あんな態度取られなきゃ、素直に綺麗でカッコいいクラスメイトだと思えたかもしれないのに。  「優……見せて」  自分の席に戻る途中に、海斗に呼び止められる。何の躊躇いもなく見せれば、目を見開いて何やら感心したような表情の後、盛大に溜息を吐いていた。  「はは……すげぇ。俺は……もう無理だわ……」  「だ……大丈夫だって!きっと変わってな……上がってるよ!」  フォローしてみせたものの、夏川 海斗の名前の横に『40点』と書かれた英語のテストを思い出してしまった。それでも、その映像を必死に振り払う。  「優ー!……うわ、すげぇ!」  奈津子が海斗の後ろから勝手に個表をチラ見した。  「あはは……。ありがと」  キラキラした視線を向ける奈津子に苦笑した瞬間  「……夏川 海斗」  受け取りに行った海斗の背中がくたびれている……。あ、先生に肩叩かれた。  「優…………130位!」  「海斗、俺らにも丸聞こえだっての!」  「中途半端すぎて笑えねーよ!」  「つか何気にオレよりいいんだけど!」  半泣きで駆け寄りながら順位を叫んだ海斗に、クラス中が爆笑する。  「萎えーー……」  「大丈夫!学年は240人だから……大体半分ぐらいでしょ?」  笑いの渦の中で鬱になる海斗を声はそこまで張り上げていないものの、必死でフォローした。  「だっせ!ぜってー英語のせいだろ!」  ただ、そんな私が見えないのか奈津子には指をさして笑っている……。
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