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「優ー、おはよー」
下駄箱で靴を履き替えていると、後ろから抱き着かれ、耳元で話された。声の主は、確かめなくても判った。
「海斗……。おはよう」
振り向いて、頭一つ分以上高い人間に目を合わせる。私が挨拶をすれば、満面の笑みを浮かべた。
程よく肌は焼けていて、短く切りそろえられた黒髪はワックスで立てられている。涼しげな目元に、スッキリと通った鼻筋、形の良い唇。中学生ながらも大人びた顔立ちで、俗に言うイケメンという部類に入っている。朝からこんな人間の笑顔を見せられるのは、多少心臓に悪かったりもするけれど。
「おい!ベタベタ優に触んな!」
「いってぇ!もっと優しく扱えよ、怪力!」
まだ抱きついたままだった海斗の腕を、奈津子が思い切り引っ張る。海斗の表情を見ると、本気で痛いように思えた。奈津子の握力……男子とタメ張るぐらいだから……。
「止めなよ、二人とも……。それより何でこんなとこに居たの?鞄持ってないし……今来たって感じじゃないよね?」
私が止めたら、奈津子があっさりと手を放した。
「んぁ?俺が来た時お前ら来てなかったから、ちょっと新しい挨拶してみようと思ってな」
海斗が学ランの上から腕を擦りながら、悪戯っぽく笑う。
「そっか……。じゃ、教室行こう?」
出来る限りの笑顔を海斗に返した。
「優は夏川がどんだけ変なことしても、突っ込まねーんだな。あたしには、寝癖ごときでうるさいのに……」
3人で教室に向かう途中、奈津子がぼやく。唇を尖らせていることから、何故か拗ねているようだ。
「え~……だって、海斗はいつでも変だから、あれぐらいで突っ込んでたらキリないよ。奈津子は可愛いんだから、粗が目立つの」
「……それもそっか!」
「ちょ!今日の優ひどくね!?牧原も乗るなよ!」
クスリと笑う私と、スッキリしたような笑顔の奈津子に必死で縋り付く海斗がおかしくて堪らない。
そんな調子のまま、所々壁の塗料が剥がれている廊下を歩き、階段を上ってすぐ右、「2-2」の教室へ入っていった。
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