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 「……ホント、いつの間にそんな気持ち悪い奴になったんだか。仕方ねぇだろ、柏木見てたら無性に腹立つんだから。正直、殴ってやりたいぐらい」  海斗の手を払い、軽薄な笑いを引っ込めて私を睨んできたから、思わず身構えた。  ……それでも更に驚いたのが、奈津子が立ち上がって菅野の鼻先に拳を突き付けたことだった。  「あたしは……テメーを殴りてぇ……!」  奥歯を噛み締めているのだろう、口元を歪ませて怒りを露にする奈津子には、海斗も瞠目している。しかし、対照的に菅野は身じろぎせず、奈津子をまっすぐ見下ろしていた。  周囲の人間も妙な状況に気付いたのか、チラチラこちらの様子を窺っている。見るぐらいなら何とかしてほしいと思いながら、自分も何も出来ていないという情けなさから、目を逸らしたくなってしまう。  その時、菅野が踵を返して奈津子に背を向けた。  「柏木、牧原……。お前ら、性別逆で生まれた方が良かったんじゃね?」  振り向きざまにせせら笑い、そのまま自分の席の方へ悠々と歩いていった。  女に生まれてこれたなら、どれほど良かったことか……!そんなこと、言われなくてもわかってる!学ランを着る時、トイレに行く時も、お風呂に入る時も、全てが私を男だと思い知らせる。  学校以外で女の子の服を着て、学校の皆が行かないような所まで出かけても、男子トイレに入らなければならない。好奇の視線を向けられれば、傷つく。しかし、自分の性に正直になってしまったら、犯罪者として扱われる。  私が何を思おうと……現実なんてどうすることも出来ない。
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