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「いっつも言ってるけど……気にすんな。きっとすぐ飽きるだろうし、本当はあんな奴じゃないはずだし……」
「夏川!あんなの庇うな!どっちの味方なんだよ!?」
「そりゃ……優だけど……」
問い詰めた奈津子に、海斗が困ったような笑みを浮かべる。悪気は無いんだろうけど、菅野まで庇おうとしているのは私だって腹立たしい。
海斗は……皆に優しいんだ。
私を受け入れてくれたのだって、ただの同情心かもしれない。でもそれを認めたくはない。
『男とか女とかじゃなくて、柏木は柏木のやりたいようにやればいいんだよ』
私はあの言葉に救われた……。
この人と一緒に居ても、息苦しくならない。私が私のままでいられる。
でも……私の本当の気持ちを晒せば、離れてしまう。私がいくら自分のことを女だと思おうが、海斗の目の前に居る自分は学ランを着た『男』。
心は女だと知っていても、拒絶されるに決まっている。そんな対象に見られていただなんて、と裏切られた気分になるかもしれない。
どんなに近くても、想いを口にすることすら叶わない……。
「海斗は……皆に優しくしようとしてるんだよね。奈津子……もういいよ」
歯切れの悪い海斗に突っかかろうとしていた奈津子を、有無を言わせない語調で制す。
「ゴメン……」
バツが悪そうに顔を背けた奈津子に、海斗が何か言おうとしていたが、教室中に鳴り響いたチャイムの音と、一斉に椅子を引く音に遮られてしまった。
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