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「……あ、うん。そう、修兄ちゃん。俺が中一の頃に引っ越した。……うん。大丈夫、修兄ちゃん一人暮らしだし、何も……。うん……うん……。わかった。じゃ……」
携帯を切ると、修兄ちゃんが飲みものを手に部屋に入って来た。
「おばさん、なんだって?」
床に座ってネクタイをゆるめながら、悪戯っぽい視線を向けてくる。俺が差し向かいのベッドに座っているせいで、修兄ちゃんは俺を見上げる形になっていた。
こうしていると、真っ直ぐ視線がかち合って、なんだか気恥ずかしくなる。
その目から逃れるように、さり気なく辺りを見回した。
1Kの修兄ちゃん部屋はモノトーンでまとまっていて、落ち着いた大人の部屋って感じだった。
本棚には、読むと頭が痛くなりそうな本がギッシリで、勉強してるんだなぁと妙に焦る。
「手土産持って行けって。一人暮らしの家に、家主と一緒に来たってのにさ。……つーか、もう家の中にいるっつってんのに、手土産って。話、聞いてるんだか聞いてないんだか」
向き直り、携帯をテーブルに放り出してそう言うと、修兄ちゃんは声を上げて笑った。
「そういうもんだよな、母ちゃんって。それから?」
「遅くなると迷惑だから、早めに帰って来いって」
「そっか。休みの日にでも挨拶に行かないとな。久し振りだし」
「手土産持って来てね。俺さ、玄六庵のみたらし団子がいーな」
玄六庵は老舗の和菓子店だ。中でもみたらし団子が有名だけど、老舗だけあって高い。
現に、俺も今まで二、三回くらいしか食べたことがない。
「何言ってんだ? お前。お前に食わすものなんざ、その辺の駄菓子屋のもんで十分だ」
「あ、ひっでー」
ひとしきり笑った後、修兄ちゃんは真顔に戻って改まった声で言った。
「学校は、どうだ?」
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