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「無理って、なんで?」
「…………」
俺は俯いたまま、答えない。
「友達の、彼女とか?」
静かに首を振る。
「じゃぁ、同じ子を好きだとか?」
それも違う。
首を振り続ける俺に、修兄ちゃんは呆れたように溜め息をついた。
「オニーチャンにも言えないことですか」
テーブルに頬杖をついて、おどけたようにそう言った。
チラリと目を上げると、優しく微笑む修兄ちゃんが見えた。
目の前にいるのは、もうすっかり幼馴染みで兄貴分の修兄ちゃんだった。
安心感。落ち着く感じ。修兄ちゃんになら、話してもいいのかな。……でも、引かれるのが怖い。
「気持ち悪い奴」
そんな風に、修兄ちゃんも思うかな。
もし、そうなったら。俺は……。
「エーシ」
柔らかい声で呼ばれて、俺はゆっくりと顔を上げた。
修兄ちゃんの誠実な瞳とぶつかる。
「弟は兄貴に甘えていいんだぞ。ま、ホンモノじゃないけどさ」
「でも……」
暖かな言葉に瞳が揺らぐ。目だけじゃない。心もだ。
「エーシ」
家族にだって言えないことなんだ。俺を見る目が変わるのが怖い。今までとは違う視線。歪なものを窺う目。
「そんなこと無い」と言われて、その言葉を信じられる自信が無いんだ。
「……エーシ?」
突然、俺の両目から大粒の涙がこぼれた。修兄ちゃんが驚いて呆然としている。
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