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「エーシ」
修兄ちゃんは起き上がると、優しく俺を引き寄せた。
伝わるぬくもりと、気怠く甘いムスクの香り。
「……うして。どうして、俺みたいなのがいるんだろう」
呟きながら、修兄ちゃんの肩に顔を埋めて、俺はまた泣いていた。どうしても止まらない。
修兄ちゃんの腕の力が強くなる。
「どうして、皆と同じじゃいられなかったんだろう。どうして……、どうして、俺だけが違うのかな。違っちゃったのかな」
溢れ出した感情は涙と同じで、もう自分でも止められなかった。
初めて口にした、誰にも言えなかった想い。修兄ちゃんは、それをただ黙って受け止めていた。
「普通でいたかった。好きな人を堂々と言えるような。でも、無理なんだ。どうしても。なんで……こんな生き物、生まれてきたんだろ……」
とめどなく流れる言葉の羅列のその先を、修兄ちゃんの唇が奪った。
それは、あの日と同じ。触れるだけの優しいキスだった。
「これは、同情」
そっと唇を離して、修兄ちゃんは穏やかに言った。
「……酷いな」
そう答えたけど、俺の心は痛まなかった。
何故って、修兄ちゃんが泣きそうな顔で笑ってたから。その表情が、あまりにも切なかったから。
「同じ気持ちだから。わかるんだよ、エーシ。想像なんかじゃなくて。……俺も、そんな時期があった」
俺の頬を両手で包んで、修兄ちゃんはそう言った。
真っ直ぐ俺を見つめるその目は、真剣そのものだった。
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