恋と初恋 ムスクと煙草

17/23
前へ
/64ページ
次へ
「エーシ」  修兄ちゃんは起き上がると、優しく俺を引き寄せた。  伝わるぬくもりと、気怠く甘いムスクの香り。 「……うして。どうして、俺みたいなのがいるんだろう」  呟きながら、修兄ちゃんの肩に顔を埋めて、俺はまた泣いていた。どうしても止まらない。  修兄ちゃんの腕の力が強くなる。 「どうして、皆と同じじゃいられなかったんだろう。どうして……、どうして、俺だけが違うのかな。違っちゃったのかな」  溢れ出した感情は涙と同じで、もう自分でも止められなかった。  初めて口にした、誰にも言えなかった想い。修兄ちゃんは、それをただ黙って受け止めていた。 「普通でいたかった。好きな人を堂々と言えるような。でも、無理なんだ。どうしても。なんで……こんな生き物、生まれてきたんだろ……」  とめどなく流れる言葉の羅列のその先を、修兄ちゃんの唇が奪った。  それは、あの日と同じ。触れるだけの優しいキスだった。 「これは、同情」  そっと唇を離して、修兄ちゃんは穏やかに言った。 「……酷いな」  そう答えたけど、俺の心は痛まなかった。  何故って、修兄ちゃんが泣きそうな顔で笑ってたから。その表情が、あまりにも切なかったから。 「同じ気持ちだから。わかるんだよ、エーシ。想像なんかじゃなくて。……俺も、そんな時期があった」  俺の頬を両手で包んで、修兄ちゃんはそう言った。  真っ直ぐ俺を見つめるその目は、真剣そのものだった。  
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加