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「あー……」
すると、修兄ちゃんは答えにくそうに前髪をかきあげた。そのままぞんざいに頭を掻く。
「……こっちに帰って来たのは、懐かしさっていうのもあったけど……。丁度、大学に好みの学部あったし。そこそこ有名だし。色んな意味で、俺にプラスだと思ったからだ」
「うん……?」
しどろもどろに修兄ちゃんは言った。でも、俺は何を言いたいのか全然掴めなくて。
前を向いたまま、修兄ちゃんの次の言葉を待っていた。
「で、頑張って受験して……受かって……。帰って来て……。お前に連絡しようと思ったけど……」
「けど?」
「……急に、怖くなってさ」
ポツリ、とそう言った。赤信号で車が止まる。
「はぁ?」
「はぁ? じゃねーよ! 普通、思うだろ!? 俺が引っ越したの、お前が中学の時だったし。もう忘れてるかもって」
「……あぁ」
なんだ、修兄ちゃんも同じだったのか。なんかおかしい。
変わる信号。
吹き出した俺を横目で睨み、修兄ちゃんはゆっくりとアクセルを踏んだ。
「だって、嫌だろ? あの頃は、お前まだ携帯持ってなかったから、家電の番号しか知らねーし。電話して『何コイツ。誰だっけ?』みたいな反応されたら。『新手のオレオレ詐欺?』って警戒されたら」
「あはは。確かに、そうかもね。忘れてるかもって不安になる。……でも、そっか。じゃぁ、良かった。俺、誠条入って」
誠条高校。俺の学校の名前。修兄ちゃんのもう一つの母校でもある。
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