215人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前が誠条入ったのって、何? やっぱ俺がいた学校だったから?」
「自惚れんな、バカ。ウチから近いからだよ」
あはは、と修兄ちゃんが明るく笑う。
さっき言ったこと。
実は、嘘。
高校選ぶ時、少しだけ修兄ちゃんが浮かんだ。どの学校も同じに見えてたから、殆ど直感で決めた。
まさか、こんな展開になるとは夢にも思わなかったけど。
「あーあ。明日も学校かぁ」
ボスン、とシートに背を預け、俺は深い溜め息をついた。正直、面倒臭い。
「学生の本分は勉学だ。存分に励みたまえ」
勝ち誇ったように笑う修兄ちゃん。なんだ、コイツ。
「修兄ちゃんだって、明日は授業でしょ。俺のクラス、現国は二時限にあるよ。大丈夫? トチらないでいけんの?」
「あー。だから、帰ったら準備しないといけないの。覚悟しとけよ。お前にガッツリ当てっから」
「げ……。マジ?」
「マジ」
ニヤリと笑って、修兄ちゃんは煙草を取り出した。赤信号のちょっとした間を使って、くわえた煙草に火をつける。
開けた窓から夜風が吹き込み、修兄ちゃんの前髪を撫でた。
その端整な横顔を眺めて、俺はそっと呟いた。
「ありがとね」
「何が?」
煙を吐き出して、修兄ちゃんはチラリとこちらを見た。
「……色々聞いてくれて。少し、スッキリした」
照れながらそう言うと、修兄ちゃんは前を向いたまま、片方の手で俺の髪をクシャッと撫でて、
「そりゃ良かった」
とだけ言った。
夜風にのって煙草と香水の香りが漂う。
久し振りに会った修兄ちゃんは、もうすっかり大人な感じだった。
最初のコメントを投稿しよう!