恋と初恋 ムスクと煙草

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「お前が誠条入ったのって、何? やっぱ俺がいた学校だったから?」 「自惚れんな、バカ。ウチから近いからだよ」  あはは、と修兄ちゃんが明るく笑う。  さっき言ったこと。  実は、嘘。  高校選ぶ時、少しだけ修兄ちゃんが浮かんだ。どの学校も同じに見えてたから、殆ど直感で決めた。  まさか、こんな展開になるとは夢にも思わなかったけど。   「あーあ。明日も学校かぁ」  ボスン、とシートに背を預け、俺は深い溜め息をついた。正直、面倒臭い。 「学生の本分は勉学だ。存分に励みたまえ」  勝ち誇ったように笑う修兄ちゃん。なんだ、コイツ。 「修兄ちゃんだって、明日は授業でしょ。俺のクラス、現国は二時限にあるよ。大丈夫? トチらないでいけんの?」 「あー。だから、帰ったら準備しないといけないの。覚悟しとけよ。お前にガッツリ当てっから」 「げ……。マジ?」 「マジ」  ニヤリと笑って、修兄ちゃんは煙草を取り出した。赤信号のちょっとした間を使って、くわえた煙草に火をつける。  開けた窓から夜風が吹き込み、修兄ちゃんの前髪を撫でた。  その端整な横顔を眺めて、俺はそっと呟いた。 「ありがとね」 「何が?」  煙を吐き出して、修兄ちゃんはチラリとこちらを見た。 「……色々聞いてくれて。少し、スッキリした」  照れながらそう言うと、修兄ちゃんは前を向いたまま、片方の手で俺の髪をクシャッと撫でて、 「そりゃ良かった」  とだけ言った。  夜風にのって煙草と香水の香りが漂う。  久し振りに会った修兄ちゃんは、もうすっかり大人な感じだった。  
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