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修兄ちゃんがウチの学校に来て、一週間が経った。
その間、修兄ちゃんは授業をそつなくこなし、ウチのクラスの連中とも男女共に打ち解けていて。そういうトコ、流石というか何というか……。
昔からデキる人なんだよね。修兄ちゃんって。
昼休みの教室は、暖かな陽が差して、のどかな雰囲気に満ちていた。
瀬田と差し向かいで昼メシを食う。どうでもいいことをダベりながら。一日のうちで、一番楽しくて、少しだけ苦い時間。
「斯波。メシ食ったら、バスケ行かない? 工藤がさ、人数足りねーって騒いでて」
菓子パン片手に瀬田が言った。
いつもだったら、喜んで行く所……なんだけど。
「あー……。ごめん。俺、ちょっと用あるから」
そう言って断ると、瀬田の表情が俄かに曇った。
「なんだよ。斯波、最近付き合い悪い」
「……ごめん」
「別にいいけどさ。……訊いていい?」
「何?」
「用って、どんな?」
瀬田の質問に、俺は沈黙で返した。
すると、瀬田は諦めたように溜め息をつくと、
「言えないこと」
と、言った。
なんでだろう。責められてる気がする。
そう思うのは、後ろめたい気持ちがあるからだろうか。
……誰に? 瀬田に? それとも、俺自身に?
「ごめん」
俺は口に残っていたパンの欠片をようやく飲み下し、絞り出すように謝った。
「いーよ、別に。謝んなくても。大事な用なんだろ。俺にも言えないよーな」
トゲのある、瀬田の言葉が胸に刺さる。俺は返す言葉が見つからず、ただ俯いていた。
それから少しして、瀬田が遠慮がちに尋ねてきた。
「……斯波さ。お前、何かあった?」
息が止まりそうになる。でも、すぐに取り繕って笑った。
「んー? 急に何? 別に無いよ、何も」
そう言うと、瀬田はじっと俺を見つめた後、静かに目を逸らして、
「なら、いいけど」
と、言ったきり黙り込んでしまった。
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