キミ想イ

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「ねぇ、修兄ちゃん」 「ん?」 「俺と付き合ってよ」  真っ直ぐ前を向いたまま、そう言った。強い風に髪がなびく。  修兄ちゃんの視線を感じる。どんな表情をしているのか、俺にはわからない。 「ヤだね」  灰を落として、アッサリと修兄ちゃんは答えた。 「俺、修兄ちゃんと一緒にいたいんだよ」  柵に置いた腕に頭をつけて、俺は弱々しく呟いた。 「そりゃ、お前……」  煙を吐き出す、修兄ちゃんの息の音が風に溶ける。 「単に安心してるってだけだろ。同類見つけてさ。一人じゃねーって思いたいだけで」 「……それの、何が悪いの。他の奴らだって、安心するからって理由で付き合ったりしてる」 「そうじゃなくて。……好きな奴はいいのかって」  グッと息が詰まった。不意にアイツの笑顔が浮かぶ。  苦しい。 「……うん。もう、いい。最初から、望みなんか……無かったし」  体を起こして修兄ちゃんの方を向いた。  修兄ちゃんは、なんだか侮っているように口元だけで笑っている。 「修兄ちゃんは好きな人、いる?」 「さぁな」  冷たい声に、唇を噛む。 「キスしてよ。……同情でもいいからさ」  不安だった。  誰かとの、確かな繋がりが欲しかった。自分を丸ごと見て欲しかった。  アイツとの未来なんて最初から無い。それなのに、想い続けてどうする。  これからも、ずっとこんな思いをしていくのかと思うと、重くて苦しくて辛くて……。  修兄ちゃんはフッと笑った後、煙草の火を踏み消して、静かに俺の頬に触れた。  そして、また触れるだけのキス。  何がどうでも、修兄ちゃんの傍は心地いいんだ。  その場所に、ずっといたいと思うのは間違っているのかな。    俺にはわからないよ。    
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