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放課後の校庭に出ると、気楽で解放された気分になる。
俺の腕を掴んだままズンズンと歩いて行く、この親友の意図がわからない……そんな時でも。
「瀬田。話って……?」
尋ねても答えは返って来なかった。
校門を抜け、いつもの帰り道とは真逆の方向を突き進む。この先には並木道と少し大きめの公園があるはず。そこへ行くつもりなのか。
俺は尋ねるのをやめて、黙って瀬田について行くことにした。何にしても、この手を振りほどくことはできない。
チラリとその背中を見やる。見慣れた、真っ直ぐな背中だ。
いつも俯きがちな俺とは違う、真っ直ぐな。
あまりにも眩しくて、こんな自分がなんだか惨めで、俺はそっと目を逸らした。
並木道に入ってしばらく歩くと、瀬田はようやく手を離した。そして、おもむろに側の木に背中を預け、小さく息を吐いた。
しばしの沈黙。
その後で、瀬田は溜め息混じりに切り出した。
「お前さぁ、彼女とかできた?」
「は? 何それ」
俺の受け答えが悪かったのか、瀬田はますます苛立って舌打ちをした。
「とぼけんなよ」
「いや、そんなのいないから。ホントに!」
「じゃぁ、いつもどこ行ってんの」
瀬田の追求に、俺は言葉に詰まった。
「それは……」
「言えねーんだろ」
「…………」
俺は俯くしか無かった。
心臓が飛び出しそうな程バクバクいってる。
「……俺は、お前を親友だって。勝手にそう思ってさ。何でも話してきたよ。家のこととか好きな女のこと、将来とかさ。……でも、お前はいつも大事なこと、はぐらかすよな」
寂しげな、低い声。
瀬田の顔が見れない。全身から汗が吹き出してくるようだ。体が震える。
「それは……」
「俺、お前の何? いっつもキツそうな顔してるくせに、何も言わねーでさ! ……なんなんだよ。俺、そんなに信用できねーかな」
額を押さえて、呻くように瀬田は言った。その泣き出しそうな声に胸が締め付けられる。
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