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「もー、いい」
深い溜め息をついて、瀬田は苛立ちを押さえ込んだ低い声で言った。
「え?」
嗤う声がする。
「もーいいよ、お前」
自分達とは違うものを嘲る声が。
「……い、やだなぁ。瀬田。怖い顔すんなよ。俺、本当に」
「もーいいっつってんだよ!! 俺には言えないんだろ。それでいいよ、もう。……悪いな。時間取らせた。行くとこ、あるんだろ? 行けよ」
諦めと拒絶。
瀬田は俺と目を合わせようとしない。
当然の結果だ。
瀬田は本気で俺のことを心配してくれている。それを俺は、笑ってはぐらかしているんだから。
それなのに。
「行くとこ……って、別に。あれは……」
「いいから行けって!! ……お前のそのヘラヘラしたツラ見てっとなァ、ぶん殴りたくなるんだよ!! 真剣に考えるだけバカバカしくなる!!」
それなのに、どうしてこんなに悲しくなるんだ。
胸が軋むように痛むんだ。
心臓が、早鐘のように鳴る。呼吸がうまくできない。ほてった顔が熱い。足が震える。
「違うんだ、瀬田……。俺……」
潤んだ目をさり気なく擦る。
真っ白な頭の中で、あの嘲笑だけが響いている。
好きなんだ。お前が。
友達としてじゃなくて、本当に本気で……好きなんだ。
そう言えたなら。
真っ直ぐにお前の目を見て、声なんか途中で裏返ったりして、真っ赤な顔して、バカみたいなこと口走って……。
そんな風に、自分の気持ちを素直に言えたなら。
瀬田が顔を上げて、言い淀んでいる俺を見つめている。
「斯波……?」
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