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何気ない会話。くだらない内容。当たり前の毎日が、俺にとっては目眩がおきそうなくらい嬉しいことだった。
この日々を崩す必要なんて無いと、本気で思う。
想いを告げなければ続いていける。続けていける。
それでいい。
瀬田は俺の親友。それでいいじゃないか。
言葉にすれば現実になってしまう。真実は、必ずしも現実と一致しないということは、十七の俺にだってわかる。
どうなるかわかってて、わざわざ真実を現実にすることなんて無いんだ。
「静かにしろ、お前らー」
朝のホームルーム。担任が名簿で教卓を叩いてそう言った。
「あー。今日から教育実習の先生が来るってのは、前話したよな。安彦(やすひこ)先生」
(安彦……?)
担任の言葉に耳を疑った。忘れもしない名字。安彦。まさか、と思い戸口に目を凝らす。
カツン、と靴音を響かせ、スーツ姿の男が入って来た。
ハッと息を呑む。
「安彦修司です。担当は現国。これから約一ヵ月、宜しくお願いします」
頭を下げて起き上がった彼と目が合った。瞬間、息が止まりそうになる。
が、彼は涼しい顔で目を逸らし、遠くを見るように目を細めた。
修兄ちゃん。
そう彼を呼んでいた時もあった。
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