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ホームルームが終わって、すぐ一時限が始まるというのに女子が騒がしい。原因は、先程の教育実習生のルックスだ。
スッキリとした顔立ちに大きな二重の目。この日の為に染め直したであろう、やけに真っ黒な髪。細身で高身長――大概の女子が喜びそうな必要条件を全て兼ね備えている。
「うるせーよ、女子。ギャーギャーギャーギャー」
「なによー。アンタ、安彦先生に嫉妬してんの? ゴリラみたいな顔してるくせに」
「……んだと、コラ!」
「無視無視。ねー、昼休み、安彦先生に勉強見てもらいに行こうよ」
「教育実習生の控え室ってどこだっけー」
「小会議室だと思うよ。二階の。ドアに貼紙してたもん」
男のやっかみなんて、恋に恋する女子にとってはどうでもいいことだ。
こういうのを黄色い声っていうのかな。俺にはピンク色に聞こえる。
当たり前のように、男に恋する声。それに疑問を持たなくていい、疑問など持つ必要の無い、声。
「すっげーな、あの教育実習生」
俺の席まで来て、瀬田が言った。騒がしい女子達を呆れた顔で眺めている。
「ヤスヒコ、だって。名前みたいな名字」
「あー……。そうだな」
それは、彼自身も気にしていた。昔から。名前が二つ並んでるみたいだろ。そう言って照れ笑いを浮かべていた。
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