恋と初恋 ムスクと煙草

5/23
前へ
/64ページ
次へ
 初恋だった。  その頃はまだわからなかったけど、あの気持ちは、多分そうだったんだと思う。  家が近所だったから、四つ年上の修兄ちゃんはよく俺の面倒をみてくれていた。  いつも一緒にいた。  喧嘩もしたけど、本当に仲が良かった。兄弟のようだ、と言われたこともあった。  お互い兄弟はいなかったから、ごっこ遊びのような感覚もあったと思う。  俺が中学に上がるか上がらないかの頃に、秘密の経験をした。  今となっては他愛も無いことだ。修兄ちゃんにとっては、単なる興味本位だったはず。  ピンク色の声が遠くに聞こえる。少女達の脳天気な声。  修兄ちゃんの目が気になった。  俺と目が合って、すぐに逸らした、あの目。  懐かしさなんてどこにも無い、冷たい瞳だった。  
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加