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放課後。
いつもなら瀬田と一緒に帰っていた。当たり前の日常。それを、今日は崩した。
「ごめん。瀬田。今日、先帰ってて」
「あれ? 何か用あんの?」
「うん……。少し」
歯切れの悪い俺をきょとんとした顔で見て、瀬田は頷いた。
「そっか。じゃ、また明日な」
「あぁ」
教室を出て行く瀬田の背中をぼんやり眺めながら、俺は自ら作った『用事』のことを考えていた。
用事。特に大した用では無い。ただ、懐かしかったってだけで。
実際、目が合ったのだって単なる偶然で。修兄ちゃんは俺のこと覚えていないかもしれない。いや、たとえ覚えていたとしても、わからないかもしれない。
だって、修兄ちゃんは中学生までの俺しか知らないんだから。
それでも、ひょっとしたら気付いているかもしれない。そう少し期待してしまう俺は、どこまでも馬鹿なんだと思う。
懐かしいって思っているのは俺だけなんだって思いたくない。『あの頃』を忘れて欲しくない。
……なんて。女々し過ぎて、本当に自分が嫌になる。
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