瞬きに立つ者は…

2/2
前へ
/39ページ
次へ
目に見える物が真実と言えるか? 鏡の中の自身にそう言われた途端、世界は動き出す。 瞬きの刹那、ストロボの向こう、暗闇に浮かぶのは血塗れた掌だった。 ついさっきまでの記憶は抜け落ちて、自身が何者なのかも分からない。 ただ分かる事は一つ… 鏡の中の存在も、自身も、元は一つであったという事… 鏡の向こうの自身の唇は弧を描いた。 「はじめまして自分…」 「はじめまして?」 揺れる瞳… 雷の様に鏡に亀裂が走り、瞬きの間に視界は血塗られし手に塞がれる。 「お前はもうオレだ。」 もう一人の人格が答えた。 あぁ… …意識が闇に落ちる。 暗い暗い底の底、自身の価値すら分からない。 ストロボの世界… 闇と光のせめぎ合う世界… 果たして自身を信じられるか? 猟奇的な掌は誰の物? この信じがたい現実は誰の物? 雷の轟に声は捉えられない。 自分は何者? 何者… 何者…… 思い出されるのは、ノイズ混じりの記憶が見せる愛しい人の笑み… 壊れたラジオの様に… 水中へ落としたラジオの様に… 音は轟の向こうへぶつりと途切れた。 …彼の人はどこに? 鏡の向こうの動く唇… つられてこぼした声はたどたどしい。 「…か…の人…を…殺……し…たの…は…お…前だ…?…………」 煩い位の雨音… ストロボが横たわる彼の人を照らして、遅れて暗闇の中、絶叫する。 「嘘だ…嘘だ!嘘だ!!」 「信じがたいだろう? 何せお前の記憶はオレの中、真実は全てオレが奪い隠してしまった…」 鏡から伸びる手に引かれ、叫び声は雷にかき消された。 「安心してお休み… 愛しい愛しいオレの半身…」 ストロボの中、弧を描く唇… それは生まれ落ちた… 高笑いは暗闇に包まれた部屋によく響いた。 鈍くなる思考… 君の中の君は君にあらず、遠雷を耳に影は光に成り代わった。 触れた指は無機質なガラスに拒まれた。 気付けばそこは鏡の中… 酷く安らかなる場所… ガラスに拒まれた先… 見つめる先にある奪われた場所は、果たして本当の居場所と言えるのか? 遠雷が聞こえる。 大切な場所も大切な人も雷の瞬きに奪われた。 ストロボの世界… 闇と光のせめぎ合う世界… 音のしない世界で瞳を閉じた。  
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加