825人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
不意に風が強く吹いた。
あの時と同じように………。
俺は目をつぶらなかった。
桜の木はざわざわと揺れ、風はたくさんのピンク色の花びらを巻き上げ、そして降らした。
桜吹雪だ。
ひらひら……ひらひら……。
たくさんの花びらに俺は包まれた。
こうして桜は新しい葉を出す。
一片の迷いも無く花を散らして。
(ナッちゃん………)
ひらひらと止めどなく舞い散る花びら。
それは春の終わりを告げる自然の贈り物。
風が止んだ。
花びらがはらはらと落ちてきた。
(ありがとう)
最後の1枚が地面に落ちた時、俺の携帯に、ナミはもういなかった。
全ては俺の心の中だけに………。
最初のコメントを投稿しよう!