ー騙ー

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『おはようございます』 「今日は早いな」 『たまにはね』 「ところで翔、ニュースみたか?」 『ニュース?』 「ああ…昨日来ていた圭ちゃんが事故で」 『えっ?まさか…』 「知らなかったのか?」 『さっきまで寝てたから』 「ったく…外が騒がしくなかったか?」 『外?』 「事故現場は翔のマンションの前の道なんだよ」 『まぢで?』 「ああ…」 『あの…圭ちゃんが…』 「何でそこにいたかはわからないが、今夜はお通夜だそうだ」 『見送りたいけど、俺が行かない方がいいかな』 「だな…俺も遠慮させてもらう事にした」 『そっか』 「こんな商売している店の人間が行ってもな」 『わかりました』 「じゃ、店開けてくれ」 俺は店の看板に明かりをともし、ドアの鍵を開けた 人が死んでも、悲しいのは身内と知り合いだけだ… その身内や友達は今頃圭を見て泣いているだろう しかし、それとは逆に 店の中では笑い声が絶えない それが当たり前 知らない人間に対して、涙なんか零さない 美咲が死んだ時もそうだった 身寄りのない美咲の死を悲しむのは俺だけ こんなに悲しいのに 美咲を知らない奴らはみんな笑っていた それが当たり前 でも、それすら許せなくなる時もある 勝手な考えだけどね けど、どんなに泣いても、叫んでも美咲はもう笑ってはくれない 残るものは、白い灰と 残酷な思い出だけ そんな思い出も忘れかけた頃に、君は… いいよ 俺は君のただ一人の味方だから
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