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真菜に視線を戻す。
真菜は、荒い呼吸で目を閉じながらも手を握っていた。
「黒兎…怖いよ…何も見えない…すごく痛いよ…」
真菜の、光の失われた瞳から涙が零れている。
「真菜…」
眉間に寂しげなシワが寄る。
それと同時に、涙がゆっくりと重力に従って落ちる。
「そんなこと言うなよ…」
真菜を力強く抱きしめる。
「死なせない…もう俺は…誰も死なせたくない!」
痛みも忘れ、そう言った。
「…く…ろ……と」
その呼びかけに、黒兎は真菜の口元に耳を寄せる。
「私ね、決めたの。黒兎が私のことを忘れたら許さないって…私を離したら、記憶を手放したら許さないからって…なのに、何で涙が零れるの?もう覚悟決めたのに…どうして?」
その問いに、静かに答えた。
「決まってる…」
顔を上げて、涙を流しながら真菜に笑いかける。
「生きたいからだよ…」
気付かされたように、真菜は目を開いた。
「弱音吐くなよ…お前はいつもみたいに笑って…俺に…」
黒兎は大きく咳き込む。
「黒兎…」
真菜が、黒兎に笑顔を向ける。
「離さないでね…黒兎…」
涙と共に、黒兎の手から、その右手は力なく滑り落ちる。
一言、その後に手は落ちた。
「大好き、だからね…黒兎…」
黒兎の目から涙が溢れる。
その悲しみは叫びになり、雨に濡れて消えた。
「真菜…真菜―――!!!」
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