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腕を塞がれていては、八代は荷物すら下ろせない。
それにいくら愛季が軽いとはいえ、ずっと抱えていられる程、重力は八代に優しくはないのだ。
「はぁ… すいませんが、先に部屋案内してもらえますか」
そう言えば、女中はすぐに広い和室に通してくれた。
他の生徒は自分達で部屋割りを決めたが、生徒会の役員はひとり1部屋を当てられ、同じ部屋が人数分あるらしい。
「悪い、布団敷いてくれ。香尋は起きろ、起きて布団で寝やがれ」
「…ぷぅ」
幸せそうに口角と頬骨を上げ、愛季は寝言で答える。
仕方なしに、八代は陽が敷いた布団に愛季を下ろした。
「ったく…」
小さくぼやきはするものの、八代は少し嬉しそうだった。
まるで壊れ物でも扱うように、そっとゆっくり愛季を下ろす。
それがどれほど美しい、まるで1枚の絵のように完成された動作だったかは廊下でシャッターを切りまくる女中が語り。
それがどれほど似合わない、普段の八代からかけ離れた動作だったかは、思わず口元を押さえた陽が涙目で語る。
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