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「あの、貴方は…」
「此処が調理室。こっちは被服室。アレが理科室でそっちが技術室な。1階は基本的に移動教室のフロアだから」
愛季の言葉を聞かず、1つ1つ指差しながら次々と説明する青年。
色々と質問はあったものの、説明を聞くのに必死だった愛季は、そのタイミングを見失った。
「…でっ、此処が職員室なっ」
「…有難う、ございます?」
「よし。んじゃ行くぞ」
どうやらこの青年、職員室にまで付いて行くつもりらしい。
愛季の腕を依然 離さぬまま、青年はノックも無しに職員室に踏み入った。
「しっつれー。 転校生連れて来たっ!」
「春日<カスガ>! 職員室に入る時はノックだと何度言わせるんだ!!」
「すんませーん。ほら愛季、挨拶しろ!」
教師の怒号を諸ともせず、青年は愛季を前に押し出した。
「…は、初めまして… えっと、本日付けでこの学園の寮に入ることになりました… 香尋愛季です」
「コレが入学届だよな?」
「え、あ、ちょっと!」
いつの間に取ったのか。
青年は愛季の入学届を教師に差し出し、愛季を抱き締めた。
最早 愛季、諦めモードである。
「…一体 何なんですか、貴方」
「え、言ってなかったっけ? オレの名前は春日 陽<ヨウ>、聞いて驚け… 山茶花学園の体育委員長だ!!」
「あぁそうですか」
擦り寄る彼に顔を顰めながら、愛季は素っ気なく言い放つ。
「うわ、冷てェ! そんな奴にはこうだ!!」
「痛いです離して下さいていうか本当に何なんですか!!」
どこまでも人の話を聞かない青年… 陽に痺れを切らした愛季。
自分より頭ひとつ分大きな陽の腕の中でもがきながら、愛季はいっそ殴り飛ばしてしまおうかなどと物騒な事を考えていた。
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