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「大人なんて… 知りません」
「そうですか」
「だってお母さんもお父さんも…」
「はい」
「う、うー…」
適当に相槌を打ちながらも、静が愛季を抱き締める腕は優しい。
そっと愛季が静の背中に腕を回せば、抗う事無くそのままにしておいてくれる。
そんな何でもない事が、今の愛季にはとてつもなく嬉しかった。
「どうせ貴方の性格上、御両親の事で泣いたりしなかったんでしょう? 僕で良ければ胸くらい貸しますよ」
「…ふ、ぅ」
小さく、愛季が声を吐き出す。
強く、静の胸に顔を押し付けるように抱き付いた。
ぼろぼろと溢れそうになる涙を堪えて、愛季は何とか声を絞り出した。
「…じゃあ… お借り、します」
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