3008人が本棚に入れています
本棚に追加
/272ページ
「何をしているんだ、陽」
「おわっ!?」
不意に、愛季を抱きすくめていた陽の腕が解かれる。
(でっか!!)
愛季は頭ふたつ分は上にあるその青年の顔を見上げ、目を見開いてそう思った。
彼は… 白衣から見るに、医学部の学生なのだろうか。
山茶花学園は多種多様な学部を誇る学園であるから、医学生が居ても何ら不思議ではない。
「…香尋君、だったか。俺はこの学園の保健委員長の春日 冷<レイ>という者で… 恥ずかしながら、この愚弟の兄だ」
「はぁ…」
「弟が迷惑かけたようで、すまなかった」
低いバリトンで冷と名乗った青年は、どうやら陽の兄らしい。
うっすらと青みがかった黒く長い髪を首の後ろでひとつに束ねていて、切れ長の瞳は深い海の色。
目元や鼻筋などには辛うじて陽に似たものが見られるが、陽より随分と大人びている様に見える。
…実際、兄なのだから大人なのだろうが。
「冷兄貴! 放せよっ!!」
じたばた暴れる陽。
どうもこの2人、兄弟仲はあまり良くないらしい。
「お2人の… 兄弟なんですか?」
「いや、あと2人いる。俺は1番上で19、こいつは3番目の16だな」
今まで陽の頭を掴んでいた手を放し、冷は言った。
どうも陽とは対照的で、物静かな性格のようだ。
反りが合わないのも尤もである。
最初のコメントを投稿しよう!