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「愛季言っただろ、今… 愛季が愛季じゃなくなる、って」
「は、い」
何だか、誘導尋問を受けている気分だ。
見た事ないくらい真剣な顔付きの陽さん、あぁやっぱり冷さんと兄弟なんだなぁと、頭の片隅、冷静な部分がぼんやり考える。
「なら、愛季にとっての愛季って?」
透き通った瞳が出す問いに答える術を、僕は知らない。
大きな子供のようなこの人を納得させるような言葉が、僕に答えられるだろうか。
「答えられないなら」
大きくて暖かくて筋張った手が、僕の頬に伸びる。
長くて力強くて頼りがいのある腕が、僕の情けない体を包み込む。
「愛季が俺等から離れる理由はねぇだろ。早く来い、兄貴も八代も心配してんだ」
「…お断り… します。僕が僕でなくなるなんて、耐えられません」
「だから、その愛季にとっての愛季ってのは何だってんだ? 悪ィけどオレは静兄貴や冷兄貴みてぇにお前の顔から感情なんか読めねぇから、言わなきゃさっぱりわかんねーぞ」
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