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「怖がらないでくれって… 頼むから」
やんわりと手を離されるけど、僕は目を固く閉じたまま。
その時の陽さんが、一体どんな顔をしてたのかは知らない。
ただ、声だけはひどく優しかった。
「ほら、寒いんだろ? 震えてる。こんな薄着でどれだけ外歩いたんだよ」
突き放したばかりの上着を僕にかけて、陽さんは僕の頭を撫でた。
「帰ろう、愛季… 皆の所にさ」
力無く、僕は首を横に振った。
薄く開いた目で、陽さんを見上げる。
困ったように眉を垂れて、僕を見つめる陽さんの顔が見えた。
「陽さんには分かんないんです… 自分がなくなっていく恐怖なんて。貴方には兄弟が居る。友達が居る。親が、先生が、たくさんの人が。僕はもう誰も居ない。父さんも母さんも… ――も。皆僕の傍から消え失せて… 僕をひとりにした。その人達の中に築いた僕という存在を、時間を、一瞬で消し去ってしまった!」
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