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呟かれた名前を聞き返す前に、愛季は俯いたまま、ただ感情のままに叫び出した。
「分からないでしょう!? 人と関われば関わる程、不安になる僕の気持ちなんて! 笑えば笑うほど、苦しくなる僕の心なんて!! もう嫌なんです、あんな想いするくらいなら最初から…」
ひとりの方が、いい。
そう囁いて荒い息をする愛季に、陽は静かに語りかけた。
普段のハイテンションが嘘のように、静かに、静かに。
「そりゃぁお前、わかんねぇよ?オレは冷兄貴や静兄貴みたいに賢くねぇし、明みたいに勘も働かない」
そんな事を言うのなら、もう僕に踏み込んで来ないで下さい。
喉まで出掛かった言葉は、しかし陽さんの人差し指に遮られた。
「でも、俺は愛季が好きだ。これだけは兄貴にも明にも、八代にだって負けない」
「…え?」
「愛季、好きだ。大好きだ。今すぐ攫っちまいたいくらい」
ゆっくりと口角を上げた陽の顔には、いつもの無邪気さは無い。
その瞳にあるのは、獲物を狙う肉食獣の煌めきと、男の本能…
「…陽、さん」
「…ハハ、安心しろって。…流石にんな事しねぇよ」
本当に、だろうか。
疑うのは嫌だが、さっきの眼は…!
愛季は陽の顔を見つめ、ふるりと喉を震わした。
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