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陽に手首を捕まれたままで、愛季は黙って旅館に戻った。
「ココで待ってろ。兄貴達呼んでくるから」
そう言って、陽は走り去る。
小刻みに震える肩もそのままに、愛季はその場にへたり込んだ。
寒い。さむい。
体が芯から凍らされる様に感じる。
唇は声を出すのを諦めた様に変色し、歯はぶつかり合ってカチカチと力無い音を出すのみだった。
「…あ? 香尋?」
そんな愛季を呼んだのは、派手に浴衣を着崩した八代で。
返事どころか顔も上げない愛季を不思議に思ったのか、八代はぺたぺたと近付いてきた。
「いつ帰ってきた?」
しゃがみ込んで視線を合わせ、八代は愛季の頬に触れる。
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