3008人が本棚に入れています
本棚に追加
/272ページ
ふらり。
そんな音が立つかというほど弱々しく、愛季が1歩前に出た。
「香尋司。あなたに、この人達と藍梨の解放を希望します」
凛として気高い愛季の声が、静かな室内に波紋を広げた。
男達は家族と自分を天秤にかけているのであろう、苦虫を噛み潰したような顔で黙っている。
「それは出来ないな」
「勿論、対価は払います。だから、先に契約書をこちらに渡して下さい」
さっ、と細く白い右手を開いて前に出し、愛季は強く司を見据えた。
迷いの色など一切感じられない美しい瞳。
誰もを魅力する立ち振る舞い。
そのどちらもを、愛季は持ち合わせていた。
最初のコメントを投稿しよう!