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「お気持ちは嬉しいです… けど、辞めたりなんかしません」
凛とした瞳。
しゃんと伸ばされた背筋。
引き結ばれた唇。
体の全てで、愛季は自分の言葉がいかに本気であるかを表現していた。
「は!? ちょっ、ソレ本気!?」
「本気… です」
先程までの涙は既に引き、愛季はただ前だけを見据えている。
明はひとつ溜め息を吐くと、細い肩に両手を置いて、幼子に諭す様に語りかけた。
「愛季。ちゃんと考えてみて? ボクはすぐに止められたけど、他の奴らはどうか分からない。何をされても、文句なんか言えないんだよ」
「分かってます。けれどここで辞めたら、手続きをしてくれた叔父さんに迷惑が掛かりますから。…それに、」
自分を見る冷たい眼。
潜め切れない陰口の数々。
嫉妬、嫌悪、憎悪。
数時間前まで確かに自分に向けられていたそれらを思い出し、愛季の瞳に僅かな哀しみが浮かぶ。
「また… あそこに、叔父さん達の元に、戻るくらいなら」
ぎゅう。
聞こえない筈のそんな音が、明は聞こえた気がした。
すぅ。
愛季の指から、緩やかに血の気が引く。
それ程までに強く服を握り締めて、愛季は呟いたのだ。
「いっそのこと… 死んだ方が、マシです」
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