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ぱちんっ。
静かな室内に、乾いた音が響いた。
「いっ… た」
赤くなった額。
目の前には明の右手…
どうやら明が、右手の中指で愛季の額を弾いたらしい。
俗に言う、デコピンというやつだ。
「…死ぬなんて、そんな簡単に言うもんじゃないよ」
「だって「だってじゃない! もしも愛季が居なかったら、明日どこかで人が死ぬかもしれないんだから」
「…僕が死んで、消える命なんて…」
俯き、蚊が鳴くような声で呟く愛季。
明はふんわりと笑うと、手触りの良い髪に指を通して愛季の頭を撫でた。
「分かんないよ。人間なんて、いつどこで人間を助けるか分かんないんだから」
緩やかに左右する明の掌に、愛季はそっと瞼を下ろす。
心地良い。
知らず知らずの内に掌に頭を擦り寄せ、愛季はそう考えた。
「…例えば、ボクが車に轢かれそうな時とかさ。側に居た愛季に助けられるかもしれないでしょ?」
「そんな、奇跡的な事」
「あるの。人間は奇跡を起こすことが出来る唯一の生物だからね」
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