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そう言って、優しく笑う明。
やがて、愛季の目から涙が零れた。
「奇跡… なんて、信じてないですから」
「そう? でもさぁ、信じられないから怪奇の跡で「奇跡」って言うんじゃないの?」
にっこりと笑う明を見て、愛季の双眸から次々に涙が零れてくる。
「う… ぁ、う」
嗚咽を漏らす愛季に、明は眉を垂れてティッシュを差し出した。
「だから… も~、泣いて目に痕でも残ったらさぁ~、ボクが冷兄達にどやされんじゃんかぁ」
参った、と言いたげな明。
やがて何かを思い付いた様に、流れるような仕草で愛季の顎を掬った。
きょとん、と明を見つめる愛季。
そして明は。
べろり。
見開かれた瞳に舌を這わせ、大粒の涙を零れる前に掬い取った。
「う… ぁ、あ、あ…」
一瞬遅れて何をされたか理解した愛季の顔は、みるみるうちに赤く染まっていく。
「めっ、明さんのばかっ!!」
恥ずかしさに居た堪れなくなったのか、そのまま愛季は個室の扉を跳ね開けて走り去っていった。
ばたばたと足跡が遠ざかり、続いて寮官が廊下を走るなと叱る声。
それらをぼんやり耳に入れながら、1人部屋に残された明は、胡座をかいて天井を見上げた。
「…やば、本気になりそー」
その無気力な言葉は、廊下を全力疾走する愛季には届かなかった。
ああ 数奇かな 美少年
男を虜にするその身には
男を愛する術はなく
束の間 逃げ去ったとしても
その先には一体
何が待ち受けているのか…
走り去れ 美少年
この運命から
どこまでも
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