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さて、やたらと広い客室に通された愛季。
座れば5cmは沈もうかという程柔らかい座布団に八代と向かって腰掛け、愛季はカチコチに緊張していた。
これまで何度もこういった豪華な屋敷に誘拐されかけた事はあるが、その時は逃げる事や誘拐犯を叩きのめす事しか考えていなかったのだ。
こうも堂々と招かれて、しかもそれが学園の保健教諭の家となれば、緊張も倍というものである。
「…で」
「は、はいぃっ!!」
「…何でビビんだよ。大丈夫なのか、お前」
「大丈夫…とは、えっと、どういう」
八代は頭をがしがし掻いて、苛立たしげに唸った。
愛季は何が何やらさっぱり解らずに、おどおどと八代を観察するのみだ。
「っだから… 兄貴と一緒に居たり、生徒会長なんか受けちまったり…」
「あぁ、はい。藍梨の事は解決しましたし、生徒会長は… まぁ、何とかしますから」
「あ゙~… 違ェっての、だからだな、俺が言いたいのは…」
八代はついにそっぽを向き、口元を手で覆って言いにくそうに口を開いた。
「…体調、だよ」
「へ」
「へ じゃねぇ!! ここ数日てめぇは… 風邪引いた、と思ったら病み上がりに雪ン中薄着で走り回ったり、見付けたと思ったらいきなりぶっ倒れたり…」
八代は愛季の肩を掴み、ごつんと額に頭突きをかました。
ごつりと良い音がして、愛季の瞳に涙が浮かぶ。
「…昨日なんか俺の知らねえ内に生徒会長なんか引き受けてやがるし… ちったぁ自分の事も考えろ」
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