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「…何もなかったのなら良かった」
その時職員室に居た教員達は、皆がこう思った。
あの、無表情をそのまま具現化したような鉄仮面の冷も。
これ程までに柔らかく暖かな表情が出来るものなのか、と。
「顔を上げると良い。生徒会室で、陽達が君の歓迎会の準備をしている」
「…」
「…香尋君?」
「………」
何を言っても反応を見せない愛季。
不思議に思った冷が、腰を屈めて愛季の顔を覗き込むと…
「…すぅ」
両親の葬儀から碌に睡眠をとっていなかった愛季は、冷に体を預けてぐっすりと眠ってしまっていた。
くたりとした愛季をそっと支え、冷はほんの少し逡巡する。
「…仕方ないか」
やがて冷は溜め息混じりにそう呟き、壊れ物を扱う様な手付きで愛季を抱え上げた。
俗に言う、お姫様抱っこである。
心地よい揺れと疲労のおかげで、愛季は結局 生徒会室まで起きる事はなかった。
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