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「愛季くん…」
「…叔父さん」
そんな愛季に近付く、無精髭に眼鏡を掛けた初老の男。
少しくたびれた表情から、どうやら40の半ばであると窺える。
「この度は… 悲しいことだね」
「…僕は大丈夫ですから、出費の心配をして下さい。お葬式の費用とか家の残骸の撤去費とか、結構かかったんでしょう?」
子供らしくない子供だ。
男… 愛季の叔父はそう思った。
なまじ頭が良いばかりに、子供らしい事をしない愛季。
同年代の子供が楽しそうに走り回る横で、1人本を読む不思議な子供。
両親を亡くした今も、泣く素振りを見せはしない。
思えばこれまでの13年間、自分は愛季が泣くのを1度でも見ただろうか…
「それはそうと、僕はこれからどうすれば良いんですか? 学校へ行こうにも帰る家が無いし…」
「あぁ… 全寮制の学校に… 山茶花学園に行くことになったよ。編入試験は… 君なら大歓迎で特別にパスだそうだ」
「それは良かったです」
山茶花学園。
どこかで聞いたような名に、愛季は小首を傾げて記憶を辿る。
そう、それは確か。
町の西側一帯を占める、大きな全寮制の男子校。
冬になれば、山茶花が学園を取り囲む様に咲き誇る香り高い学園である。
有名なマンモス校であるのに、反して学費はかなり安い。
何でも、奉仕団体が特別に奉仕をしているだとかそうでないとか。
授業のレベルがかなり高い進学校であり、ノイローゼ発生源との異名までもつ。
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