3008人が本棚に入れています
本棚に追加
山茶花が咲き誇る道を走る愛季。
朝の9時過ぎと中途半端な今の時間、町外れの裏道は無人もいい所だ。
100mは12秒フラット、所謂俊足の愛季。
程なくして、恐らくは手紙の出し主であろう男の屋敷に辿り着いた。
見渡す限りの塀。
瓦の屋根は今にも崩れそうで尚、どっしりとそこに存在している。
「相変わらず… だっさい造り」
乱れぬ息で嘲るように笑い、愛季はインターホンを押す。
ピンコローン。
全体的に古臭い造りの屋敷には似合わない機械音の後、何も言わずに扉が開く。
「うっわ… 客人の応対もしないわけ?」
少し頬を膨らませながら、愛季は開いた扉を見つめる。
「…さて」
恐らく、自分が入れば閉まるであろう硬くて重そうな木の扉。
「行くか」
その扉をくぐりながら、愛季は1度だけ振り返った。
愛季が思った通り 軋む音を立てながら、ゆっくりと扉が閉まっていく。
扉が閉まる寸前、愛季は小さく呟いた。
「…消えちゃえ」
最初のコメントを投稿しよう!