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滔々と、突然の、雨。
いつの間にか降り出した雨が、愛季の頬や肩を濡らす。
次第に勢いを増していく雨霞の中、愛季に近付く人影があった。
「愛季様、傘を」
「…様付けはやめてほしいなぁ」
苦笑しながら、差し出された番傘を受け取る愛季。
「ありがとー、おじさん。愛季でいいよ」
「それは、聞けません。貴方は… 主の大切な人だから」
雨に濡れながら、傘を持ってきた男は淡々と答える。
「そう。ねぇ、おじさん 濡れてるよ?」
「自分は平気です」
「でもさ、僕だけ傘に入ってたら、僕が悪い子みたいじゃない」
そう言って、愛季は背伸びをして男に傘を差し掛けた。
されるがままの男の顔をじっと見つめ、ふと呟く。
「…おじさん、もしかしてお兄さん?」
深い茶色の、少し長い髪。
アッシュグレーの瞳。
綺麗に剃られた髭。
少し窶れて生気は感じられないが、かなり整った顔立ち…
「今年で29です」
「あはは、微妙。顔はお兄さんなのに」
柔らかく微笑んで、愛季は言った。
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